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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)259号 判決 2000年11月29日

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  本件の請求の趣旨及び原因は別紙記載のとおりであり、要するに、本件訴えは、原告が道路交通法(以下「法」という。)違反行為(速度超過)をしたとして道路交通法施行令(以下「令」という。)別表第一に定める点数六点を累積点数に加算されたことが、行政事件訴訟法三条二項所定の「行政庁の処分その他公権力の行使」に当たると主張して、その取消しを求める処分の取消しの訴えとして提起されたものと解される。

二  ところで、令別表第一の一は違反行為の種別ごとに違反行為に付する基礎点数を、令別表第一の二は違反行為に付する付加点数(交通事故の場合)を、令別表第一の三は違反行為に付する付加点数(交通事故の場合の措置義務違反をした場合)を、それぞれ定めているところ、当該違反行為及び当該違反行為をした日を起算日とする過去三年以内におけるその他の違反行為のそれぞれについて令別表第一に定めるところにより付した点数の合計(以下「累積点数」という。令三三条の二第一項一号イ参照。)が所定の点数に達しているか否かは、運転免許の拒否又は保留の基準(法九〇条一項ただし書、令三三条の二第一項)、運転免許を与えた後における運転免許の取消し又は効力停止の基準(法九〇条四項、令三三条の三)、運転免許の取消し又は効力停止の基準(法一〇三条二項、令三八条一項)、運転免許の欠格期間の指定の基準(法一〇三条六項、令三八条二項)及び国際運転免許証等に係る自動車等の運転の禁止の基準(法一〇七条の五第一項、令四〇条)となっている。

しかし、累積点数は、公安委員会(運転免許の保留及び運転免許の効力停止については、法一一四条の二第一項により権限の委任が行われた場合には、警視総監又は道府県警察本部長)が、前記の各処分を行う場合の基準となるものにすぎず、違反点数を付して累積点数に加算することは、それによって累積点数が所定の点数に達しない場合はもちろん、右の点数に達する場合であっても、それだけでは当該運転免許の効力等の運転者の法的地位に影響を及ぼすものではなく、前記の各処分が行われた場合に初めてその運転免許の効力等の運転者の法的地位に影響が及ぶものである。

したがって、違反点数を付して累積点数に加算することは、当該運転者の権利義務に直接の影響を与えるものではないから、行政事件訴訟法三条二項に定める「行政庁の処分その他公権力の行使」に当たらないと解するのが相当である。

三  なお、仮に、別紙訴状の請求の趣旨(二)ないし(五)記載の請求が、右の取消しを求める趣旨にとどまらず、被告らに対し、一定の作為ないし不作為を求めるいわゆる義務付け訴訟の趣旨を含むとしても、法令上、被告らに対して右のような作為又は不作為を義務付けた規定は存在せず、原告が被告らに対して履行を求める右各義務の存在が一義的に明白であるとは認め難いから、これらの訴えがいわゆる無名抗告訴訟として許容される場合に当たらないことは明らかである。

四  よって、本件訴えは不適法で、その不備を補正することができないことが明らかであるから、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一四〇条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

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